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2024.05.29 - 100kmウォーク

第8回東京エクストリームウォーク100 (2024.5.18-19) 回顧録

 関西エクストリームウォークに出たからには、東京エクストリームウォークにも出とかなきゃいけないだろう、ということで。

 

■ エキスパートクラスを選択する理由

 昨年11月に関西エクストリームウォークで 100km ウォークに初挑戦したので、やっぱり本家本元というか東京エクストリームウォークの方も歩きたいなぁとはずっと思っておりました。ただ開催スケジュールが関西の方と近くなると難しいので(関西の方を優先するつもり)どうしようと思っていたところ、今年の関西エクストリームウォークは秋開催のみという発表があったので、春開催の東京エクストリームに参戦することにしました。湘南の海とか横浜の夜景とか一度見てみたかったこともありますし。

 ところで、エクストリームウォークの 100km 部門には2つのエントリークラスがあります。チャレンジクラスとエキスパートクラスです。

【 チャレンジクラス 】

  • 制限時間:26時間
  • スタート時刻:8:00~8:57(アーリースタートは 7:30 ~ 7:57)

【 エキスパートクラス 】

  • 制限時間:24時間
  • スタート時刻:10:00 ~ 10:12

 

 条件面だけ見れば、どう考えてもチャレンジクラスの方が有利です。制限時間長いし。純粋に完歩タイムを狙う場合も、前が塞がるリスクのないアーリースタート組が最も有利になるはず。逆に、エキスパートの方はデメリットだらけです。

  • 制限時間が短い
  • 道が狭いと前を追い抜くのが大変
  • 先行勢によるコンビニや自販機の品切れリスク

 いや、考えようによってはメリットもあります。

  • 大会コースを確認する手間が少ない(前方にいっぱい参加者がいるから)
  • エキスパートクラスであることを自慢できる
  • 先行する参加者をごぼう抜きにできる

 えぇ、つまるところエキスパートクラスというのは エキスパートクラスのゼッケンを背にドヤ顔でビギナーズやチャレンジクラスの参加者を圧倒する ことに意義があるわけですね。そういうクラスですから、エキスパートクラスにエントリーしてくる参加者は猛者揃いのはずです きっと。

 しかし、私も前回初挑戦で 18時間切りを達成していますし、その後の実力の上積みもあるので、今なら界隈の猛者たちと互角に渡り合うだけの実力は十分にあるはず。東京エクストリームウォークを歩くのは初めてでコースを間違えるリスクの方を減らしたかったので、それならばとエキスパートクラスでエントリーしてみることにしました。

 ……よーし、エキスパートクラスで無双ごっこするぞー

 

■ トレーニング

 昨秋の 100km ウォーク初挑戦でいろいろ課題が見つかったので、どのような取り組みをしたのかメモ。


▼ ウォーキング

 通勤中の歩行時間はトータルで1時間程度取るようにしています。加えて、休日を利用して 20km 程度の距離を月2回歩くようにしています。歩くコースは様々ですが、大阪城公園の「大阪城ラン&ウォークコース」(1周 3.5km)や長居公園のランニングコース(1周 2,813m)だと荷物軽い目でキロ8分台~7分台くらいのペースです。街中を歩く場合は信号があるためペースが落ちますが、それでもキロ10分以内のペースで歩くようにします。

 歩いているときのフォームは特に気にはしていませんが、視線が上下左右にブレず安定しているかどうかには気を配るようにしています。視線の高さや方向が安定していないということは、無駄な上下の動きがあったりフォームが崩れたりしているということなので。


▼ 心肺機能の強化

 100km ウォークを経験して痛感したのは、ウォーキングといえども心肺機能の強さがモノを言うことです。キロ8分(信号のある道でキロ9分)のペースで歩き続けるのは、最初の十数分程度なら勢いだけで何とかなりますが、2時間以上歩き続けるとなるとかなり厳しいものがあります。キロ10分のペースでも、100km ウォークの終盤になるとかなり息がしんどくアップアップになりました。また、ウォーキングでも競り合いの状況になると、たいてい先に息の上がった方が負けます。

 そこで心肺機能の強化に取り組むことにしたわけですが、まず日常生活の中で利用できるものは利用します。典型的なものとしては、登り坂や階段の登りです。電車の駅の乗り換えで階段を登るときは、息をつかずに1段飛ばしで一気に一番上まで登り切ります。登り切った後でも息が乱れないのが理想です。

 しかし、やっぱりそれだけでは練習としては足りません。そう思っていたら、うってつけの坂路調教コースが地元にありました。

 日本国内でも屈指の激坂を擁する暗峠・大阪側区間。2.5km のあいだに高低差 400m を登るそれはそれは過酷なコースです(どれくらい過酷なコースかは実際に歩けばわかります)。このルートはハイキング客もよく通る道ですが、普通の人では途中休憩なしに登り切ることはまず不可能です。その道を途中休憩なしで峠の一番上まで登ります。リュックの中身は水のペットボトル1本あれば十分。

 関西エクストリームウォークのビギナーズ部門を歩く前に登ったときには、中間地点で1回休憩し、一番上まで登り切ってからもう1回休憩を必要とするほどヘトヘトになりました。100km ウォークを初めて完歩した後に再挑戦したときは休憩なしで登り切ることができましたが、それでも 30分ちょっとかかりました。その後何回かトライして、27分台で登り切るところまでいきました。


▼ 筋肉の硬さの改善

 これも長距離を歩くようになって実感したことですが、下半身の筋肉は柔らかい方が断然有利です。足の筋肉の柔らかい部分と硬い部分を比べますと、柔らかい方はいくら歩いても全然疲れが溜まりませんし痛くなることもありません。逆に固い部分の方はどうしようもないので、スピードを落とさずに歩き続けられる状態をキープするために信号待ち時間に欠かさずストレッチをする破目になります。

 硬い筋肉を柔らかくするにはストレッチ、と言いたいところですが、実際のところなかなか柔らかくなってくれません。どうしたものかと悩んでいたところ、行きつけの整骨院から勧められたのがこちら。

 indepth という名の業務用 EMS (Electrical Muscle Stimulation)。EMS には色々種類があるようですが、この indepth という機器は最大 16,000Hz の出力に対応した高周波タイプのもので、身体の深い部分のインナーマッスルにも作用するとのこと。EMS と言えば筋力トレーニングのイメージが強いのですが、整骨院の院長さんによると副次的作用として筋肉を柔らかくする効果もあるらしく。

 業務用 EMS ですので、週1回通院して 30 分間当ててもらうことに。当てる部位は、筋肉の凝りがひどいお尻回りや、長距離を歩いたときに凝りやすかった太ももやひざ裏の部位にしてもらいました。最初から高めのパワーにするとキツいので当て始めはパワーを抑え目にして、だんだん慣れてきたら自分でパワーを上げて出力調整します。

 半年間ほど EMS を続けた結果ですが、30km 以上歩いたときのお尻回りの筋肉の凝りが激減し、太ももの裏側も張りが出にくくなるといった感じで顕著な効果がありました。今回の東京エクストリームウォークでは、信号待ちの間のストレッチこそ欠かせませんでしたが、足の痛みが原因で歩くスピードを落とさなければならない状況には全くなりませんでした。これでもまだまだお尻や太ももの筋肉を改善する必要がある状況ですので、まだ半年は続けたいと思います。 indepth は各地の整骨院で取り扱いがあるようですが、課金力が試されるサービスですのでトライされる方は各自のお財布と相談の上でご検討ください

 

■ プランニング

 では、 第8回東京エクストリームウォークのコースを分析してみます。遠征組のため実地調査はできないので、地形アプリを使った簡易分析です。


  • 1区(START 小田原城址公園 ~ CP1 平塚しおかぜ広場)24.2km
     最長区間の24km。各所にアップダウンはあるものの起伏の変化は緩やかで、全体を通じて歩きやすい。
  • 2区(CP1 ~ CP2 湘南海岸公園 水の広場)10.0km
     言わずと知れた湘南ダート区間。砂まみれの狭いコースで混雑必至。日陰もないため脱水症に注意。
  • 3区(CP2 ~ CP3 横浜児童遊園地)22.0km
     遊行寺坂を皮切りに標高差の大きなアップダウンが続くコース前半の難所。距離も長い。
  • 4区(CP3 ~ CP4 ポートサイド公園)13.8km
     横浜市内の丘陵地帯を越えるが難度は高くない。横浜ベイエリアは本大会屈指の観光スポット。
  • 5区(CP4 ~ CP5 鈴ヶ森道路児童遊園)18.3km
     平坦な道が続くが信号地獄。歩道橋や地下道もちらほら出現。タイムが出にくい後半の難所。
  • 6区(CP5 ~ GOAL 明治神宮外苑 室内球技場)11.7km
     信号の数が少なく歩きやすい道が続くが、最終盤で六本木の急坂が待ち構える。ゴール地点は標高32m。

 信号の多い市街地、アップダウンのある郊外、砂の多い海沿い、実に変化に富んだエクストリームウォークらしいコースです。ぱっと見た感じ難所になりそうなのは3区のアップダウンと5区の信号地獄で、ここをどう乗り切るか。基本的にアップダウンのある区間は歩幅をセーブしてピッチ主体で歩いた方が足にダメージが残らないので、今回もその方針で臨むことにします。ペースはじっくりとキロ10分くらいで。コース後半の信号地獄も、だいたいキロ10分ペースで歩ければ OK とします。

 CP での休憩は、休み過ぎると足が冷えて筋肉が固まってしまうのであまり時間をかけない方針ですが、靴下交換を兼ねてリフレッシュする時間はとるようにします。問題は何回休憩するか。初挑戦のときは CP2, CP4 で靴下交換の休憩を、CP3 でもリフレッシュ休憩を入れたので合計3回の休憩でした。今回は靴下交換の休憩2回に減らすつもりでしたが、タイム狙いでいくなら1回に減らしたい。その場合、56km 地点にある CP3 で休憩するのが一番よさそうです。

 仮に、CP3 での休憩を 20分、それ以外の CP での休憩を5分として(CP での休憩時間合計 40 分)、コーズ全体をキロ10分で歩き通したとすると、完歩タイムは 100 × 10 + 40 = 1,030分(17時間20分)になります……相当にいいタイムになるじゃないですか。えっ、じゃぁ1区だけペース早めでキロ9分で行った場合は

地点 時刻
START (0.0km) 10:00:00 発
CP1 (24.2km) 13:37:48 着 / 13:42:48 発
CP2 (34.2km) 15:22:48 着 / 15:27:48 発
CP3 (56.2km) 19:07:48 着 / 19:27:48 発
CP4 (70.0km) 21:45:48 着 / 21:50:48 発
CP5 (88.3km) 24:53:48 着 / 24:58:48 発
GOAL (100.0km) 26:55:48 着

……17時間切れるぞ!間違いじゃないよな!?

 たいへん夢のある話であります。夢があることはいいことだ。でも実現できるかどうかは別問題。取らぬ狸の何とやら

 前回の実績では平均キロ10分ちょっとのペースだったので、これは理想的にコトが運んだモデルケースくらいに考えておくことにします。今回のコースはぶっつけ本番で歩くことを考えれば、17時間台前半でいければ上出来ということで。

 あと、対策を考えておかなければいけないのは湘南ダートです。歩いているうちにシューズに砂が入るのは困る。できれば砂のないところを歩きたい。でも、展開予想すると2区の湘南海岸は先行するチャレンジクラスの人たちでごった返すのは目に見えていて、前を追い越そうと思ったら間違いなく砂の多い場所を歩かなければならないはず。さぁ、どうする。

 そこで用意した対策がこれ↓

 シューズ用の砂よけカバー。おそらくオムニコート(砂入り人工芝)でのテニスプレイを想定したものだと思います。甲にフックがついている薄手の生地のものを amazon で買いました。実際につけてみると生地が余り気味だったので、後ろ側で生地を絞ってシューズにフィットするように調整しました(写真ではクリップを使って止めていますが、本番では 100均のマジックテープで止めています)。


 それから、 コース沿いのコンビニも一通りチェックしておきます。マップを作って見やすくしたのがこちら。

 一番気をつけなければならないのは、平塚駅前 ~ CP1 ~ CP2 ~ 片瀬江ノ島駅のあいだにコンビニが1店舗もないことです。しかも、湘南海岸を歩くのは一番暑い時間帯で、歩くコースの南側が海なので日陰もありません。つまり、平塚駅前のコンビニを逃してしまうと、CP2 を出て江ノ島近くに行くまでコンビニで飲み物を補給することができず CP1 で貰った水が命綱という状態になってしまいます。これは絶対覚えておかなければならないポイントです。

 さらに、みんな同じことを考えている可能性があるので、スタート時刻が遅い場合にはコンビニで買い物をしようとしても品切れしているという最悪のケースも考えなければなりません。そうすると、小田原城をスタートしてから CP2 の先にある江ノ島駅を抜けるあたりまではコンビニに立ち寄らず無補給で行くことを想定しておくのが最も手堅い戦略となります。

 私はウォーキングで結構水分を取る人なので(反対にほとんど水を飲まないで行ける人もいて、そのあたりは体質の差?)、リュックの両ポケットに水とポカリのペットボトルを2本差しにするのが基本装備です。ということで、飲料補給計画は以下の通りということにしました。

  • 初期装備はペットボトルの水1本、ポカリ2本の合計3本
  • 水1本とポカリ1本で1区を乗り切る
  • CP1 でペットボトルの水1本を貰えるので、それと2本目のポカリで江ノ島あたりまで乗り切る
  • 江の島 ~ 藤沢橋のあいだにコンビニが何軒かあるので、そのどこかで3本目の水とポカリを購入
  • そこから先は沿道のコンビニも多いので、後はなんとかなるだろう

 携行食は、前回の反省からゼリードリンク主体にしました。次のような計画です。

  • アミノバイタル ゼリードリンク 青:スタートしてから 10~20 分後に、水分補給も兼ねて
  • アミノバイタル ゼリードリンク 赤(1本目):50km あたりで
  • アミノバイタル ゼリードリンク 赤(2本目):70km あたりで
  • ローヤルゼリー入り ゼリー飲料:85km あたりで

 最後に、長距離を歩く際のお約束事項として、序盤から信号待ち時間のあいだのストレッチ運動は欠かさないようにします。足の筋肉が張ってくる前からストレッチをやっておくと中終盤にかけて効果てきめんなので。

 

■ スタートまで

 今回は3日前からアミノ酸ローディングです。毎晩寝る前に1パックずつ飲んで、最後の1個は当日の朝に。

 小田原には前泊するので、前日に新幹線で移動です。2時間あたり1本だけ小田原に止まる「ひかり」があるので、それを使えば1本で行けます。移動での疲れを最小限にするため、迷うことなくグリーン車をチョイス。

 グリーン車に乗ったからにはモバイルオーダーサービスを利用してシンカンセンスゴイカタイアイスを買います。ついでに車内販売限定のアイスクリームスプーンも一緒に。

 明るいうちに小田原駅に着いたので、ホテルに荷物を預けて小田原城内を散策。明日の参加者っぽい人も結構見かけました。

 スタート会場の設営もだいたい終わっていました。明日はここからスタートするんだなぁ。


 夕食はホテル近くのレストランでステーキを注文。ステーキうまい。でも何だか頭が熱っぽいぞ……ここにきて体調トラブル発生か!?

 ホテルの自室に戻ってひとまず様子を見る。湯舟のお湯に浸かって身体を温める。トラベルケトルでペットボトルの水を沸かしてお湯を飲む。なんとか体調は落ち着いてきたみたいだ。風邪でなくてよかった。やっぱりトラベルケトル持ってきてよかった。明日になったら良くなっていることを願って眠りにつく。

 翌朝は7時に起床。エキスパートの朝は遅い。

 朝はカレーにしようと思いつつ、ホテルの朝食バイキングに行く。しかしカレーがない。よく見るとカレーが売り切れている……先行勢によって食べ尽くされた模様です

 食い物の恨みはチョモランマよりも高くマリアナ海溝よりも深い恨みを抑えつつ適当にパンとおかずを取って食べる。それで終わりではなく、自室に戻ったら持参したナッツ 100g を胃袋に詰め込む。100km 歩く道中の大事なエネルギー源なので、水を飲みながらナッツをほおばる。なんとか完食できた。

 スタート地点には1時間前に現地入りして、足裏にプロテクトJ1を塗りこむ。マメを作らないように、足の指全体と、足裏の指付け根の部分にも全体的に塗りこんでおく。足裏のテーピングはいらない。もう、なくても大丈夫だ。

 あとは、ビギナーズクラスの参加者たちが全員スタートするのを外野から見守る。

 ……いよいよスタートの時刻が近づいてきました。

 では、100kmを軽くねじ伏せに参ります。

 エキスパートの名に恥じぬ戦いを。

 

■ 1区 - Team 魔裟斗を追って

 10時0分、エキスパート1組スタート。

 2列縦隊になって小田原城を抜け出したのもつかの間のこと、先頭に飛び出そうと後方からポジションを上げていく人もいて徐々に隊列の中身が入れ替わっていく。出だしはキロ9分くらいのペースで流れていたが、先頭を歩く人のペースが上がっていくにつれ、隊列も徐々に縦長になっていく。

 私は、十数人程度の先頭集団を一番後ろから見渡せるポジションにつけた。集団を後ろから追っていくときのお気に入りのポジショニングだ。キロ8分台のペースともなると、ペースについていけない人、速すぎると判断して自重する人は先頭集団から脱落して後ろの方へ下がっていく。そうした人たちを追い越しつつ、ピッタリ先頭集団の後ろから離れない私。気がつくと先頭集団の人数は10人を切っていて、後ろを振り向くと後続は大きく引き離されていて人影も見えない。エキスパートといえども、その実力差は大きそうだ。

 3キロを過ぎて酒匂橋を渡ると、早くもビギナーズ部門の参加者が見えるようになる。このあたりからは歩行人数も多くなるため、道路の歩道は左右どちらを歩いてもいいように運営の方々が誘導されていた。と思いきや、6キロ過ぎの親木橋交差点では、エキスパートの参加者は道路右側の歩道橋を渡るようにしっかり誘導された。運営はビギナーズには優しく、エキスパートには厳しい。

 この頃にはエキスパートの先頭集団も完全にバラバラになってしまい、先頭を歩いていた2~3人の姿はもう見えない。私はというと、すぐ前を歩いていた2人を追うような形で歩き続けている。ペースは、だいたいキロ8分半といったところだろう。序盤で想定していたペースなので、このまま前を歩くエキスパートの方をペースメーカーにして歩き続けることにした。

 7キロ付近の国府津駅前あたりになると、もう歩道はビギナーズの参加者で埋め尽くされている。私たちエキスパートは、そのビギナーズ参加者の列と歩道の端の間をすり抜けるようにして前へ前へと進んでいく。ビギナーズ参加者の隊列をスムーズに追い越していくには、歩くスピードだけでなくフットワークの軽さも必要だ。その一方で、後ろの方から私たちを追い抜いていく別のエキスパートの方も現れてきた。そういうときは、ペースメーカーを「乗り換える」。すなわち、今までペースメーカーにしていた人を追い抜いて、新手のエキスパートの方を新たなペースメーカーにする。ペースメーカーにされた方は勘弁してほしいだろうけど。そして、ペースメーカーの歩くスピードが緩くなってきたら、待ってましたとばかりにそのペースメーカーを追い抜きにかかる。

 そうして歩き続けていて、気になることが1つあった。今大会では、元格闘家の魔裟斗さんがチームを結成してビギナーズ部門に参戦していたのだ。ビギナーズ部門とエキスパート部門のスタート時刻を書いておくと、次のようになる。

  • ビギナーズ部門 Gブロック:スタート時刻 9:00 ~
  • ビギナーズ部門 Hブロック:スタート時刻 9:15 ~
  • ビギナーズ部門 Jブロック:スタート時刻 9:30 ~
  • エキスパート部門 Kブロック:スタート時刻 10:00 ~

 つまり、ビギナーズ部門とエキスパート部門では、スタート時刻に最大1時間の差がある。しかし、真のエキスパートにとってビギナーズとの1時間差は「あって無いに等しい」。9:00 にスタートしたビギナーズ部門の参加者が 5km/h (12分/km) で歩き続けたとしても、10:00 にスタートしたエキスパート部門の参加者が 6.67km/h (9分/km) で歩けば、13:00 に 20km 地点で追い付いてしまうのだ。

時刻 ビギナーズ
(12min./km)
エキスパート
(9min./km)
9:00 0.0 km 0.0 km
10:00 5.0 km 0.0 km
11:00 10.0 km 6.67 km
12:00 15.0 km 13.3 km
13:00 20.0 km 20.0 km

 さらに、1人ではなくチームで歩いた場合、そのチームは必然的にメンバーの中で1番遅い人に合わせて歩くことになるので、歩くスピードは落ちる。そう考えると、キロ9分以内のペースで歩き続けていれば CP1 にたどり着くまでに Team 魔裟斗を追い抜くことはほぼ確実と予想できるのだ。

 なので私は、数多のビギナーズを追い抜きながら、Team 魔裟斗の後を追った。ところが、二宮を過ぎても、大磯を過ぎても、Team 魔裟斗と思しき集団は見当たらない。

 「Team 魔裟斗は、どこだ!?」

 ふと道路脇にあるコンビニを見ると、ビギナーズ部門の参加者たちで大繁盛している。なるほど、コンビニの中にいたら見つかるはずもないか…… 魔裟斗チャンネルで後日公開された動画によると、Team 魔裟斗のみなさんは 12km 地点にある特設休憩ポイントで うな新 さんのうな重を召し上がっていたそうで。ずるいぞ私にもよこせ

 平塚駅が近くなるとビギナーズ部門の参加者の数はめっきり少なくなり、代わりに Eゼッケンや Fゼッケンをつけた 100km 部門の参加者が多くなる。かと思えば、私が追い抜いたはずのエキスパートの方々も逆に私を抜き返しにかかってきた。どうやら、私もペースメーカーにされていたということらしい。おそらく、お互いに実力が伯仲した者同士ということなのだろう。互いに引っ張り合ってペースを維持できたのであれば、それはそれでよいことである。

 ただ、1区も終盤になって問題がおきた。気温が高かったせいで水分補給も多くなり、CP1 に着くまでに水もポカリもペットボトルが空になりそうだったのだ。CP1 に着けばペットボトルの水を1本貰うことができるが、その前にコンビニで1本買うべきかどうか。買えば水不足になるリスクは無くなるが、荷物が重くなる。そして、平塚駅前のコンビニを通り過ぎてしまうと、次は CP2 を過ぎて江ノ島まで沿道にコンビニはない。決断のときが迫る。

 幸い、湘南海岸に備えてリュックの中にはポカリがもう1本ある。いざとなったらそのポカリを開ければいい。私は「買わない」決断に賭けた。

 1区の最後、高浜台交差点に差し掛かると、ちょうどエキスパート部門の先頭を歩いていると思しき人が CP1 から抜け出してきたところだった。さすが、エキスパートの先頭は速いな。交差点を渡ると、しおかぜ広場まで砂場の道が続く。これが東京エクストリームウォーク名物の湘南ダートか……砂に足を取られながらも、なんとかしおかぜ広場に辿り着いた。

 13時34分、CP1 平塚しおかぜ広場に到着。1区をキロ9分弱のペースで歩けたので、ほぼ予定通りの進行である。

 CP1 では、ペットボトルの水1本と、平塚名物の弦斎カレーパンを頂く。CP2 以降に持ち越すと食中毒のリスクがあるため、カレーパンはその場で食べることにした。時間が惜しいので、テーブルの傍で立ったままカレーパンを齧り、ペットボトルの水と一緒に喉に流し込む。美味しいものは、もっとゆっくりしたときに食べたいと思った。仕方あるめぇ、それがタイム狙いのエキスパートの宿命ってもんだ

 

■ 2区 - 湘南海岸大渋滞

 カレーパンを食べ終わったら、空になったペットボトル2本をゴミ箱に捨てて、CP1 で貰ったペットボトルの水と2本目のポカリをリュックの両脇に差して、いざ出発。再び砂場の道を通って元来た交差点へ戻り、そこから湘南大橋を目指す。

 湘南大橋を渡り始めて、その右側を見渡してみると

 湘南の海!

 すごい。見渡す限り広がる青い空と青い海。関西エクストリームウォークのコースだと JR塩屋駅~須磨浦公園間の海の眺めが素晴らしいけど、海の果てまで見渡せそうな開放感が湘南の海にはある。

 これは絶対写真撮らなきゃいけないやつだ。そう思って、撮影ポイントになりそうな場所まで少し後戻りして、スマホで写真に収める。この瞬間は観光第一なのでタイムロスは気にしてはいけない 写真を取り終えたら、またスタスタと元のペースでコースを進んでいく。

 湘南大橋を渡り終えて国道134号線を進むと、湘南海岸・砂浜のみちへ入っていくように運営の方から案内される。ここから湘南海岸公園まで、ダートまみれの幅員狭小区間が約8kmに渡って続く。このあたりになると、7:30 にスタートした Aゼッケンの方から平均以上のペースで歩いているビギナーズゼッケンの方まで、ゼッケンの種類は実にバラエティに富んでいる。つまり、それだけ人が多い。にも関わらず道が狭いので、延々と続く縦隊が出来上がる。湘南海岸は本日大渋滞だ。

 とはいっても、道の右側に人ひとりは通れるスペースを空けてくれているので、そこを通って隊列をごぼう抜きさせてもらうことにする。ただし、追い越しスペースには砂まみれになっている箇所が所々にある。そういうときのために、わざわざシューズ用の砂カバーを履いてきたのだ。砂が靴の中に入るリスクを恐れずに、追い越しスペースをどんどん進む。

 砂浜のみちに入ってから約1.5kmのところにある茅ヶ崎サザンCの前を通過。しかし CP2 はまだまだ先だ。当日は湘南ビーチランも開催されていて一部のコースが重複していたので、重複区間を歩くときは湘南ビーチランのランナーの邪魔にならないように前後を確認しながら、エクストリームウォークの参加者の列を追い抜いていく。ずっと狭い道が続くので気を遣うところだ。

 進行方向右手の遥か先には江ノ島が見える。江ノ島の手前に CP2 の湘南海岸公園があるのだが、歩いても歩いても江ノ島が大きくならない。そういえば、第2回関西エクストリームウォークで明石市内の海岸を東へ延々と歩いていたときも、ずっと遠くに見える明石海峡大橋の大きさが全く変わらず、本当に進んでいるのかという気持ちになった。海岸沿いを歩くのは海風に吹かれるのが心地よい反面、そうしたしんどい一面もある。

 道の海側沿いには砂を防ぐための柵が設けられているのだが、写真を見てもわかるように柵の内側にも砂がずいぶん入り込んでしまっている。場所によっては、道のほとんどが砂の山に埋もれてしまっていて、人ひとりがやっと通れるくらいのスペースしか残っていないような場所もあった。そういう場所は仕方ないので、追い越しをせず一列に並んで通り抜けていった。もっとも、そういうことはある程度織り込み済みであるので、2区はキロ10分のペースで進めれば OK と計画を立ててある。

 CP2 湘南海岸公園 水の広場には 15時20分に到着した。だいたいキロ10分のペースで歩き通せたので、予定通りである。

 CP2 では果物ジュースとおにぎりが配られていたのだが、果物ジュースはカリウムが多いだろうし(汗をかいているのでどちらかというとナトリウムがほしい)、おにぎりも食べる気にはならなかった (他にもっといいものがあることに気がついた)ので、どちらも受け取らないことにした。ペットボトルの水もポカリも残り少なくなったが分量的には問題ない。物資の補充も計画通りに行えそうだ。

 足を止めて見渡してみた限り、水の広場といってもあまり涼めそうな場所ではなさそうだし、そもそもここで休憩するつもりもなかったので、5分も経たず早々に CP2 を出発することにした。エキスパートらしい、まさにエクストリームな戦いぶりだ。

 

■ 3区 - アウェーの戦い

 CP2 を出た後は国道134号線に戻り、片瀬江ノ島駅から湘南江の島駅を経て、藤沢まで北へ向かって進む。このあたりになると、ようやく建物の日陰の中を歩くことができるようになる。それでも暑いことに変わりはないけれど。

 さて、江ノ島~藤沢にかけて沿道沿いに何件かコンビニがあるので、ここで物資補充を兼ねたトイレ休憩を取ることにした。目星をつけたコンビニに入る直前に水とポカリのペットボトルを空にして、お店に入ったら回収ボックスの中にポイ。そして、新たに3本目の水とポカリ、そしてクーリッシュを買うついでにトイレを借りる。

 完璧だ。台本通りの、実に完璧な進行だ。公園のトイレよりも、コンビニのトイレの方が空調が効いているし使い勝手がよろしい。

 コンビニを出た後は、買ったばかりのクーリッシュを飲みながら歩く。この日クーリッシュという飲み物というか食べ物(ドリンクパック入りのラクトアイス)を生まれてはじめて口にしたのだが、うまい。実にうまい。こんなにウォーキングに合う食い物があるなんて、もっと早く知っておけばよかった。おりぎりよりも口にしやすいし、身体の熱冷ましにもなるのでいいこと尽くめだ。LOTTE さんエクストリームウォークのスポンサーになって CP でクーリッシュ提供してくださいお願いします

 クーリッシュを食べてすっかり気分がよくなったので、藤沢方面へ向かって快速ピッチで歩いて行く。藤沢橋までは平坦に近い道が続くので飛ばしまくった。事実、CP2 から藤沢橋までの 7.6km を 64分で行っていたので 100km ウォーク中盤にしてはとんでもないハイペースだ。藤沢橋交差点を右折すると、いよいよ初対面となるあいつが姿を表す。

 箱根駅伝でも有名な「遊行寺坂」。730m の間に 34m の高低差を登る難所として知られている。

 登ってみるとたしかに急な坂ではある。が、前回の関西エクストリームウォークのコース中盤にあった千里丘陵に比べれば半分程度の規模であるし、このくらいの坂は割と登り慣れている。

 登り坂に合わせて歩幅を調整し、悠々と遊行寺坂を登り切った。楽勝だ。

 どちらかというと、3区は遊行寺坂から先が問題だ。事前に地形アプリで行った調査では、この先も緩やかなアップダウンを繰り返しながら上りが続き、吹上交差点付近で最大標高 (約72m) に達する。そこから先は緩やかに下っていくが、大坂下からは戸塚駅(標高12m)まで一気に下ることになるのだ。アップダウンが大きい。初見のコースでもあるし、この先はキロ10分のペースでいいと割り切って淡々としたペースで歩いた。

 もっとも、キロ10分でも他の参加者よりは早いペースなので、前方を歩くチャレンジクラスの方々をどんどん抜き去っていく。かと思えば、後方から物凄い勢いで歩いてくるエキスパートの方が1人いて、その方には追い抜かれた。でも気にしない。あなたはあなた、わたしはわたし。

 このあたりまで来ると、さすがに先行する参加者の数も少なくなってきて前方視界に誰もいなくなる状況も出てくるようになった。関東はアウェーの地であり当然コースの下見なんかしている筈もないので、進行方向の判断に迷うところではスマホの Google Map でコースを確認してから先へ進む。

 戸塚駅を 17時47分に通過。ここで、スタッフの方から階段を上ってオーバーパスを渡るように指示される。鬼か。

 ここのオーバーパスで JR 東海道本線を越えようとしたあたりが 50km の通過ポイントになる。まだ空は明るい。スタートから8時間も経過していないことに驚く。このまま同じペースで行けば単純計算で 16時間を切るタイムでゴールすることになるが、CP3 で一息入れる予定だし、5区は信号地獄なのでさすがに無理だろう。50km を過ぎたので、1本目のアミノバイタル ゼリードリンクの赤をこのタイミングで投入する。

 戸塚駅から平戸立体交差点まではさほど高低差のない道程が続く。しかし、3区のラスト 2.5km で 40m 近い標高差を登ることになる。ほとんど休憩なしで歩き続けてきたので、最後の登り坂はさすがに疲れて少しペースが落ちた。おまけに、思いのほか水分の消費が多くて CP3 に着くまでにポカリが空になりそうだった。買うための時間を節約したかったので、歩きながら自販機を物色する。

 ほどなく、ポカリを売っている自販機を発見。やったー、と思い自販機に500円玉を投入するが、冷たく返却口に落とされる。もう一度投入しても同じ。

 この自販機は新500円玉を受けつけないというのか……手持ちの100円玉は切らしていたので、仕方ないお札で買おうと長財布を開ける。中にいたのは、福沢諭吉と樋口一葉。野口英世がいない。いま、この瞬間だけは野口英世が必要だというのに、肝心なときに限って奴がいない。

 「な、なんということだ……目の前の自販機でポカリが買えぬというのか!?」

 仕方がないのでコンビニでポカリを買う作戦にチェンジする。自作のコンビニマップで直近のコンビニを探す。どうやら CP3 に着くまでにコンビニはあるようだ。よかった。

 しかし、コンビニに入って飲料水のコーナーを探しても 500ml のポカリが見当たらない。棚の表示をよく見ると、ポカリの在庫がなくなっているぞー!先行勢によるコンビニ品切れリスクが炸裂した模様です

 まさかまさかのポカリ補給失敗。仕方ないので次善の策としてアクエリを買う。同じ失敗を繰り返すわけにはいかないので、100円玉を確保するため QUO カードではなく現金で購入。ついでに2個目のクーリッシュも買った。

 その後も登り坂を歩き続けて、18時51分に CP3 横浜児童遊園地に到着した。ここのチェックポイントは噂通りの鬼畜仕様で、公園入口から公園内のチェックポイントまで 10m以上の高低差を登らされた。エクストリームウォークはマゾヒストたちの集いなのでこの程度のことは気にしてはいけません

 チェックポイントでチェックを受けたとき、近くにいた運営スタッフの方が「いま 110 カウント」と言ったのが聞こえた。ということは、私は 110 番目に CP3 へ到着した参加者ということになるのだろうか。だとすると、この時点でチャレンジクラスの9割くらいを抜き去っていた計算になる。

 チェックポイントの補給コーナーでは、ペットボトルに水を補給してもらい、魚肉ソーセージだけをもらう。疲れも出てきているので、リフレッシュも兼ねて予定通り20分の休憩を取ることにした。スタートから履いていたシューズ用の砂カバーを外し、靴下を脱いで足先を乾かす。靴下の中に湘南海岸の砂が少し入り込んでいたが問題になる量ではなく、砂カバーはその役割を十分に果たしてくれたようだ。その後プロテクトJ1を塗り直して、保護クリームが定着するまでの間に魚肉ソーセージを胃袋に詰め込む。食事というよりは作業だ。

 ふと、17時間フィニッシュ計画の工程表を確認すると、CP3 への到着予定時刻は19時7分、出発予定時刻は19時27分となっていた。予定より16分早いペースだ。歩くことに支障が出ない限り17時間以内でゴールでき、それどころか16時間30分を切ることすら不可能ではないことに驚きを感じていた。

 気がつけば、CP3 に着いてから 10分が経過していた。新しい靴下とシューズを履き、残り時間でストレッチをする。胡坐を組んで座った姿勢から上体を前に倒し、円を描くように上体を動かしてお尻回りの筋肉をじわじわと伸ばす。次に、片足ずつ足を真っすぐに伸ばしてふくらはぎと太ももの裏側の筋肉をストレッチする。最後に、正座した状態から身体を後ろに地面まで倒して太ももの前側の筋肉を伸ばす。

 ここで時間になったので、いざ出発。夜になったのでヘッドライトを装着して、リュックに付けていたLEDライトも点灯させる。青色LEDに換装した関西エクストリームウォークのLEDバッチのお披露目である。

 

■ 4区 - This is Tokyo Xtreme Walk

 ここからが東京エクストリームウォークの後半戦だ。CP3 から保土ヶ谷までは下り坂が続く。横浜ベイエリアで写真撮影する時間を稼ぎたかったので、ここはスピードを上げて歩いた。最初の 1km のタイムを確認すると約8分。CP3 でリフレッシュできたおかげだが、早い、あまりにも早すぎる。少しペースを抑えなければ。

 そういえば、今大会では前回同様に歩幅をコントロールしながら(上り下りでは歩幅を絞って)歩くことをポリシーとして決めていたのだが、中盤以降はそのことは全く気にならなくなっていた。意識しなくても必要なところで歩幅のコントロールができているし、ストライドに頼らなくてもキロ9分程度のスピードで歩けていることに気がついたためだ。だから、歩幅のことは足に任せることにした。

 CP3 から保土ヶ谷駅までの 3.8km を 32分で通過。キロ8分半を切るペースだ。こんな傍若無人なハイペースに付き合える人は誰もいない。1区でエキスパート1組の先頭集団にいた方も見かけたが、信号待ちの間に私に追い付くのでいっぱいいっぱいだ。

 西横浜駅を過ぎて浜松町交差点を右折し、横浜市西区の丘陵地帯を抜けて黄金町駅方面を目指す。ここは高低差約 30m のアップダウンがあるので、焦らずキロ10分のペースで進む。黄金町駅まで来たら、いよいよお待ちかね横浜市内中心市街地のエリアだ。

 ポカリ代わりに買ったアクエリは結局ポカリの代わりにはならなかったので、早々に飲み切って改めて自販機でポカリを買い直す。これで飲み物は水とポカリの2本体制に戻った。横浜スタジアムを通り過ぎて開港広場前交差点まで辿り着くと、運営スタッフの方から交差点を渡って山下臨港線プロムナードの方へ進むように案内される。

 山下臨港線プロムナードへの階段を登り切ると

 横浜の夜景だーーーっ!!

 この目で初めて見る横浜の夜景。思わず息を吞むほどの美しさだった。ただただ、素晴らしい。

 私が東京エクストリームウォークに参加した目的は、第一にこの夜景を見るためといっても過言ではない。その景色がいま、目の間に広がっている。

 もう歩くどころではない。どう考えてもこの瞬間は観光第一なので、バシバシと iPhone で写真を取りまくった。撮った写真は夜間ということもあってブレたものばかりだったが、幸い1枚だけブレず綺麗に写っていたのが上に載せた写真である。

 その後も、横浜の夜景を見ることができた幸せを噛みしめながら、横浜のベイエリアを通り抜けていった。これが、これこそが、東京エクストリームウォークの醍醐味だ。

(左上・横浜赤レンガ倉庫)(右上・汽車道 港三号橋梁)
(左下・アニヴェルセル みなとみらい横浜)(右下・日本丸メモリアルパーク)

 ベイエリアを満喫した後は、気持ちを引き締め直して 2km 先にある CP4 へとひた進む。

 21時25分、CP4 ポートサイド公園に到着。横浜ベイエリアの夜景を満喫しつつ、キロ10分以内のペースを守ることができた。70km 歩いてきたが、足の調子は全然問題ない。あとは、ゴール目指して突き進むだけだ。チェックポイントでの補給はパスして、CP4 を飛び出して行った。

 

■ 5区 - 信号地獄を越えて

 いよいよ後半の難所、信号運が試される5区である。第一京浜(国道15号線)をひたすら北上する区間で、大通りなので信号の数も多い。事前に Google ストリートビューで歩行者が守らなければならない信号を数えたら 68 個もあった。でも、関西エクストリームウォークの神戸~西宮間は同等程度の距離ながら信号数は驚きの 80 個なので、こちらの方がまだ救いがある。

 しばらく歩いているうちに、70km 地点で2本目のアミノバイタル ゼリードリンクの赤を飲む計画だったことを思い出し、リュックから取り出してちびちびと飲んで長丁場の戦いに備える。CP4 で少しだけ息を入れたせいか、序盤はキロ9分台前半くらいの快調なペースで進む。まずは順調な滑り出しだ。

 しかし、5区は長い。とにかく長い。似たような景観が続くので、湘南海岸同様に進んでいることが実感しにくいステージだ。それでもひたすら前に向かって歩き続けるしかない。なおも先行するチャレンジクラスの方々を追い抜いて行くことを、歩き続けるモチベーションにする。

 抜き去って行く方々を観察してみると、ソロで歩いている方はほぼ例外なく男性の方で、女性の方はと言うと5~6人程度の集団(といっても、お互い見知らぬ間柄なのだと思う)を、前方を歩く男性陣に付いて行く形で後ろの方を歩いているケースが多い。ソロで参加されている女性の方々は、おそらくみんなそういう感じで歩いているのだと思う。この隊形が、ソロ参加する女性が一番安心して歩き続けられるシチュエーションなのである。女性との関わりが少ない男性諸氏たちには、その辺りの事情をどうか分かってやってほしい

 CP5 を出てから 8km 先にある箱根駅伝 鶴見中継所を通過。1時間20分かかっているので、ほぼキロ10分ペースである。ということは、スタートしたときからスピードが落ちてきているな……最初の頃と比べたら息も荒くなっているし、信号待ちの頻度も増えてきているような気がする。

 そこで、信号待ちの時間の使い方を工夫することにした。小田原をスタートしてからというもの、信号待ちのあいだに足のストレッチは欠かさず行っていたのだが、終盤になってストレッチをしていると息をハァハァさせている自分に気がついた。そこで、信号待ちのあいだは対向車線の信号を見ながらストレッチを行うようにし、歩行者信号が点滅を始めたらストレッチをやめて息を整える時間を作るようにした。

 しかし、それでも歩くペースが落ちてきているようだ。もうそろそろだろう。CP5 から 10km 手前の川崎駅付近にあるコンビニで2回目のトイレ休憩を入れることにした。そのために、水のペットボトルの方を空にして、代わりの商品を買う。コンビニなので QUO カードの方が小銭のやり取りも必要ないから決済の手間もかからないだろう……と思ったら、何やらコンビニ従業員の様子がおかしい。QUO カードをタッチ決済端末にかざすように言ってきた(あっ、やっぱり分かってなかったか)。やがて店長らしき方がやってきて、その場はなんとか事無きを得た。

 日本のコンビニは色々な決済手段に対応している。現金、クレジットカード、電子マネー、バーコード決済、Apple Pay、QUO カード……等々。なので、コンビニの従業員はこれらの決済手段すべての対応方法を覚えておかなければならない。コンビニのバイトをすることになった場合、すべてに対応できる自信のある人、いる?

 私の対応をしたのは外国人従業員の方だったが、日本語によるコミュニケーションの壁もあるだろうから、業務対応は日本人スタッフ以上に訳が分からないことだっただろう。ワケわからんくらい規格を乱立させまくり、そのすべてに対応させることを強要する社会が悪いのだ。だからコンビニの従業員さん、君は悪くない。

 閑話休題。コンビニで思いのほか長い時間を過ごしたことがかえって吉と出たのか、歩くペースを持ち直したようだ。コンビニに寄っている間に先を越された人たちを抜き返しているうちに、前方で信号待ちをしている方が見覚えのあるゼッケン番号をつけていることに気がついた。小田原でスタートする前に、運営さんから東京エクストリームウォーク皆勤と紹介されたレジェンドの方だ。滅多にないチャンスなので、こちらから声を掛けさせてもらい少しの間だけお話させて頂く機会を得た。私が 100km ウォーク2回目ということを話したら、ちょっと驚かれていたっけ。たしかに、2回目の人が歩くにしては早すぎる位置にいたので。

 そこからしばらくの時間を、レジェンドの方と、その場に居合わせていたもう一人のエキスパートの方、私の3人で歩いた。川崎駅前を過ぎたところにある六郷橋を通過。ちょうど神奈川県と東京都の境界に位置するので、ここから先が本当の東京エクストリームウォークということになる。

 一緒に歩き始めて、明らかにレジェンドの方より私の方が歩くペースが早いことに驚いた。私が途中の自販機で最後のポカリを買ったときも、徐々に差を詰めていって信号で分断されることなく追いついた。そこから先は、先行する私が信号待ちをしている間にレジェンドの方が追い付く、という状態が続いた。もう一人のエキスパートの方も、必死になって後からついてくる。

 このあたりは信号多くて大変なんですよー、と、レジェンドの方。そうですねー、と返す私。

 いずれ、私がレジェンドの方を置き去りにするのは時間の問題だった。85km を過ぎたところで、最後の切り札となるローヤルゼリー入りのゼリー飲料を飲み干しラストスパートに備える。

 日付が変わって 24時34分、CP5 鈴ヶ森道路児童遊園に到着(手ブレの写真しかなくて失礼)。あろうことか、レジェンドの方に先着してしまった。

 もちろん、ここで休憩をしているような場合ではない。同時刻のうちに CP5 を出発。あと 12km。17時間はおろか、16時間30分というタイムが、もう手の届くところにまで来ている。

 思えば、レジェンドの方と邂逅できたことが転機だったかもしれない。RunGraph の画像を見直すと、明らかにあのポイントから歩くペースが上がっている。前回の関西エクストリームウォークで出会えた2大会連続トップフィニッシャーの方といい、今回出会えたレジェンドの方といい、その界隈で輝いている人からは良い刺激を受けることが多い。私も、そうした一人になりたいと思う。

 そういえば、先述の2大会連続トップフィニッシャーの方と一緒に歩いていて、前方にいる人を追いかけている途中で信号に引っかかって足止めをされるたびに、その方が口にしていた言葉がある。

  『こちらも向こうも、条件は同じ。五分と五分』

 本当に強い人だからこそ、口にできる台詞だ。わざわざ言わなくても、理屈では分かっていることだけれども、口にできるからこそ強い人なのだ。

 

■ 6区 - エキスパートの栄光

 いよいよ最後の12キロ。泣いても笑っても最後の12キロである。この12キロをどう歩き切るかで、最終的な完歩タイムが決まる。16時間30分を切ることができるかどうか、最後の戦いの幕開けである。

 コースは引き続き、品川駅を通り過ぎて赤羽橋交差点に至るまで第一京浜を北上する。東京都心だが、ルートの形状もあってか関門となる信号の数は意外と少ない。CP5 を飛び出して勢いのままにコースを突き進む。1km を過ぎたあたりで時間を確認してみたら、キロ9分を切るペースで歩いている。果たしてこのままのペースで行けるか。

 CP5 から 7.1km 先にある赤羽橋交差点に到達。遠くにうっすら東京タワーが見えているが、ここを左に曲がる。67分で到達したので、キロ9分半を切るペースだ。このままのペースで行けば16時間30分を切ることができる。しかし、麻布十番から先は最後の難関である六本木の坂が待ち構えている。ゴール地点のある明治神宮外苑の標高は高いところで 34m あるので、実に高低差 30m を登り切らなければならない。

 しかし、私の足は止まらない。一気に六本木の坂を登り切った。むしろ、登りの区間に入ってから歩くペースは加速している。いったいどこに、そんな力が残っていたのだろう。渾身のラストスパートだ。

 そしてついに、明治神宮外苑の入口にまで辿り着いた。時刻は 26時16分。残りはあと 500m。100km ウォーク2戦目にあるまじきタイムが出ようとしていた。ここでも、信号待ちをしていたチャレンジクラスの方から「ものすごいですね」とエールをもらう。いえいえハッキリ言って出来過ぎです、と返しつつも、何だか色んな人からパワーを頂いたのだなぁということに改めて気づく。

 栄光のゴールフィニッシュ。ゴール時刻は 26時22分だった。写真の時計の時刻が1分遅れなのは、ゴール直後に運営スタッフの方がゼッケンの取り外しをしてくれた後に撮ったため。運営の方によると、全体で20何番目のゴールで、相当に速いタイムとのこと。おそらく、このタイムよりも速い人は数えるほどしかいないはず。

 いやー、やったよー。エキスパート無双、ここに完遂だ。

 屋内球技場の中にはいって、完歩証を受け取った。公式タイムは16時間31分。スタート前にゼッケンのバーコードをスキャンされた時刻が起点となっているので、その分だけタイムが延びている。エクストリームウォークの完歩タイムがアバウトなのはお約束事項です

 改めて見直してみると、初経験のコースで、観光スポットを見物してこの結果だったので、今回の東京エクストリームウォークは私にとって完歩タイム以上の価値があるものになった。そして、恐ろしいことに実測完歩タイム16時間22分というのは、(コースや条件が異なるものの)関西エクストリームウォーク2大会連続トップフィニッシャーの方の前回大会でのそれをおそらく上回っている。大変なことになってしまった。

 次回の 100km ウォークは秋開催の関西エクストリームウォークを予定しているのだが、目標はだいたい決まっている。もはやトップフィニッシュを狙うとかケチくさいことを言っている場合ではなくて、アーリースタートからの当日中フィニッシュ(16時間15分以内の完歩)はもう射程圏内にあるし、サブ16も狙えるのかもしれない。さすがに開門時刻前のゴール到達(15時間45分以内の完歩)は難しいと思うけど。

 実現できるかどうか誰にも分からないことに、挑戦する義務が私にはある。

 

■ データ

▼ 気象条件

地点 時刻 気温 (℃) 日照時間 (h) 降水量 (mm) 天気
小田原 9:00 23.4 1.0 0.0 -
小田原 12:00 25.5 1.0 0.0 -
辻堂 15:00 22.7 1.0 0.0 -
辻堂 18:00 20.8 0.7 0.0 -
横浜 21:00 20.6 - -
羽田 24:00 18.9 - 0.0 -
東京 27:00 17.9 - - 薄曇

▼ タイムテーブル

地点 通過ポイント 距離 (km) 時刻
START 小田原城址公園 0.0 10:00 発
国府津駅前交差点 6.9 10:58
二宮駅入口交差点 11.6 11:37
旧吉田茂邸 14.6 12:04
大磯駅入口交差点 17.6 12:28
平塚駅前交差点 21.3 13:04
CP1 平塚しおかぜ広場 24.2 13:34 着
13:40 発
茅ヶ崎サザンC 28.4 14:17
CP2 湘南海岸公園 水の広場 34.2 15:20 着
15:24 発
藤沢橋 41.8 16:28
遊行寺 42.1 16:31
戸塚駅 49.8 17:47
CP3 横浜児童遊園地 56.2 18:51 着
19:10 発
保土ヶ谷駅東口ロータリー 60.0 19:42
横浜スタジアム・横浜公園 66.0 20:42
横浜赤レンガ倉庫 67.1 20:53
汽車道 港三号橋梁 67.5 20:58
日本丸メモリアルパーク 68.1 21:04
CP4 ポートサイド公園 70.0 21:25 着
21:27 発
箱根駅伝 鶴見中継所 78.0 22:47
六郷橋 81.1 23:23
CP5 鈴ヶ森道路児童遊園 88.3 24:34 着
24:34 発
品川駅 92.4 25:12
赤羽橋交差点 95.4 25:41
六本木ヒルズ 97.2 25:56
青山2丁目交差点 99.5 26:16
GOAL 明治神宮外苑 室内球技場 100.0 26:22 着
  • 完歩タイム(実測値):16時間22分
  • CP休憩時間合計:31分
  • CP休憩時間を除く歩行時間合計:15時間51分
  • CP休憩時間を除いた平均歩行速度:9分31秒/km

▼ 区間タイム

区間 タイム ペース (min./km)
1区 (START ~ CP1 24.2km) 3:34:32 8:52
2区 (CP1 ~ CP2 10.0km) 1:40:47 10:05
3区 (CP2 ~ CP3 22.0km) 3:27:12 9:25
4区 (CP3 ~ CP4 13.8km) 2:15:33 9:49
5区 (CP4 ~ CP5 18.3km) 3:07:12 10:14
6区 (CP5 ~ GOAL 11.7km) 1:47:50 9:13

 

■ おまけ

 いやー、さすがに疲れたよー。とりあえずアミノバイタル ゼリードリンクの黄色も飲んだし、着替えて横になります。今回も airweave mini のお世話になります。風除けにジャケットを上からかぶって、おやすみー しかしなんでみなさん雑魚寝がデフォなんだ 身体しんどくならないのかな

 2時間ほど仮眠が取れたので起床。微妙に眠いです。ゴール会場を7時過ぎに出ようとしたところ、留まっていたキッチンカーから

 「1杯いかがですか?」

と呼び止められたので、スープをお呼ばれすることに。

 うまーっ。やっぱスープ飲んだら胃腸が生き返りますわー

 せっかく東京に来たのでキャリーバッグを引きながら明治神宮外苑を散策。新しくなった国立競技場を見物がてらにぐるっと1周してきました。しかし でっかいなー

 100km 歩き終わったばかりですが、ノロノロでも歩いた方が足の血流が良くなってリハビリになるので、歩く時間を取るようにしています。

 そのあとはご褒美タイムがくるまで、東京駅でお土産を買うなどして時間つぶし。

 お待ちかねのご褒美タイム!

 東京駅近くの 筑紫樓 丸の内店。ふかひれ姿入り煮込みつゆそば(4,400円)。

 ふかひれの煮込みつゆそば(2,600円)でも十分に美味しいのですが奮発してしまいました。

 筑紫樓さん、以前に東京駅の八重洲側で「頂上麺」という名前で店舗を出していたことがあり、そのときに一度食べたことがあったので覚えておりました。またいつか食べたいと思っていたのですが、東京エクストリームウォークで上京したときがチャンスだろうと、ずっと心待ちにしていました。

 フカヒレはコラーゲン豊富なので 100km 歩き終わった身体の滋養になりますし、何より ここのふかひれつゆそばは美味しいです!

 

■ 反省点

  • 1区で歩いている途中で靴紐がほどけてしまい、その紐が反対側のシューズのカバーに絡まってコケそうになった。
  • 1,000 円札を切らしてはいけない。
  • 自販機用のコインとして 100 円玉を何枚か持っておくこと。IC カード決済できる自販機があればベストだけど。
  • コンビニで現金で買うかカード等で買うかは、従業員の顔を見て決める。
  • 後発組はコンビニの品切れに注意。ポカリはあっという間に売り切れる。
  • 100km ウォーク完歩直後は大丈夫だったのに、その後徐々に足の指が痛くなってきて、帰宅後に確認したら足の爪2本から内出血していた。
  • 100km ウォークから3日後くらいに、左足だけ指の間にブツブツができていた。プロテクトJ1をしっかり洗い落とせていなかったか。